考古学資料の年代決定には、実年代・歴年代で表す絶対年代と、考古資料自体の比較によって
序列を決める相対年代の二つの方法で年代を決定することが出来る。
絶対年代を調べる場合には、遺物に文字記録が残っている場合と、自然科学分析による
場合がある。日本では、弥生時代以降に文字が使用されるようになるので、遺物についての
文献が残っていれば、その遺物が作られた時代が判明する。しかし、弥生時代以前は文字記録が
ないので、自然科学分析による絶対年代測定を行う。
自然科学分析(理化学的年代を算出)の方法には、放射性炭素年代測定法と年輪年代測定法が
ある。放射性炭素測定は、1949年にW.F.Libby(米)が考案した方法である。空気中に
含まれる放射性炭素C14を呼吸して取り入れていた生物が、死後に呼吸しなくなることで
C14が一定の速度で減少していくことを応用し、遺物のC14残存量を調べて、年代を分析する
方法である。C14の測定は自然遺物だけでなく、繊維土器や土器の付着物などの人口遺物も
分析することが出来るが、対象はあくまで有機物であり、石器や土器自体などの無機物は
年代を測定することが出来ない。また、C14の大気中の濃度や、体内のC14の減少速度が
一定ではなかったり、海産物のC14の残存率が陸上の生物よりも低く、陸上の遺物に比べて
古い年代を示すなど、測定結果の年代に誤差(幅)が生じてしまう。さらに、測定年代の幅が
広いため、放射性炭素年代測定法は正確には絶対年代とは言えない。
その点、年輪年代測定法は、現在唯一の絶対年代といえる。四季の明確な地域では、
木の生長に遅速が起こるため、年輪が形成される。その年輪の生長度合が、広い地域で樹種
ごとに共通していることを応用して、木を材料として伐り出した年代を割り出していく方法
である。木材建築や木製品の多い日本では、放射性炭素年代測定法の補正年代として利用
されている。
相対年代は、考古学資料自体を比較して、古いものか新しいものかの序列を決めていく
方法であり、実年代では表記できない。相対年代測定法には、層位学と型式学による方法がある。
地層学の応用である層位学ではW.Smith(英)が提案した「相重なる二つの地層のうち、
本来下位の地層は上位の地層より古い」という地層塁重の法則と、「一つの化石には、
その地方の化石を含んでおり、その化石はその上の地層にもその下の地層にも含まれない」
という地層同定の法則によって遺物の年代を相対的に測定(推定)していく方法である。
生物学の応用としての型式学は、生物学が進化(変化)していく過程において、以前は実用上
の機能を有していた機関が、次第にその機能を失ってしまうという生物学の進化論を遺物の
分類学に応用させている。同じ用途で使われるが形が違うものを型式として区別するが、
時代によって異なる型式も一気にその形が変わるというわけではなく、徐々に変わっていく。
機能を果たさなくなった部分が次第に衰え、その姿を失くす、あるいは新しい機能が姿を現す、
そのパターンの順序を推定する方法である。Monteliusは、型式の認定を「発見物」の
認定から始まるとし、如何なる型式が同時代のものであるか、如何なる順序で各時期が続き
あっているかという二つの事項を決めなければ、相対年代を確定できないと考えた。発見物
とは一括出土の遺物とし、型式の形成には多くの同類の遺物が同じ層位に出土しなければ
ならず、一括出土の遺物の型式の確実性は、30回以上でないと認められないと考えた。
それほど古くないものであれば、ある型式のものについて文献資料があることも多く、
そこから他の型式の年代もおおよそ推定できる。
どの測定法で年代を調べようと、その年代が確実であるというわけではないので、
複数の可能な限りの測定法で、年代を補正していくことが望ましい。
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