大理石の男

STAFF
監督/アンジェイ・ワイダ

CAST
イエジ・ラジヴィオヴィッチ/マテウシ・ビルクート役/その息子マチェック役
クリスティナ・ヤンダ/アグネシカ役


映画学校の生徒アグネシカは1950年代の労働英雄の姿をテーマに卒業映画を作ろうとしていた。そんな中、博物館の倉庫でかつての労働英雄ビクルートの大理石の彫像を発見し、アグネシカはビルクートの当時の状況とその後を知ろうと関係者への聞き込みを精力的に行っていく。

まず彼女とカメラマン達は、当時のフィルムを撮影してビルクートをレンガ積みの労働英雄と仕立てた、ブルスキ映画監督に話を伺った。それによると、ビルクートは1日で積むレンガの記録(監督が持ちかけた話)にグループで挑戦し成功した。彼らの体力は極限に達していたが、グループでの分業を着々とこなし、黙々と積み重ねた甲斐あり、見事8時間でレンガ3万個を積む偉業を達成したのだった。彼らはその後英雄ともてはやされ、大理石や絵画など芸術にも影響を与えた。彼らの働く姿、逞しい肉体は、国を発展させるための原動力の象徴であったのだ。なぜなら、彼らのレンガ積みの行為は、人民が安心して暮らす住宅の基盤、土台となる重要な行為であったからだ。

英雄に賞された後、彼ともっとも親しかった友ビットリオは各地方に汽車で訪れ、レンガ積みの記録を披露していく。大事業を受けもつ資本家になったビットリオや、知り合いからビルクートの話を聞きだす。
しかし、ある時事件が起きる。地方を巡業していた時に、ビルクートは両手に大やけどを負ってしまう。地方の同じ作業員がビルクートをねたんで、煮えたぎったレンガを渡したのだ。最初、ビルクートにレンガを渡したビットリオが疑われるが、ビットリオがやけどせずに済んだのは手が荒れていたために手袋をしていたためだった。ビルクートは、腹心の友達を疑ったことで、とても腹を立てた。

火傷を負い、今までのようにレンガ職人として生きていけなくなった彼だったが、困っている人々の力になる仕事を進んでこなしていった。根っからの誠実な人間だったのだ。

しかし、そこへまたビットリオに疑いがかかる。政府を倒そうとしている人々の仲間ではないかとう疑いだ。戦前に所属していた団体に問題があるらしい(詳しく覚えていないが)。そして、ビルクートに火傷を負わせて、国民的労働英雄を一人消したのではないかと思われ、捕まってしまう。

火傷の真相ははっきりとしないのだが、ビルクートは友達を救出するために奔走する。妊娠中の妻が止めるのも聞かずに、当局に行ってビルクートが無実であるから、そのことを調べてもらうようお願いする。当局の人間に、そのことは最大限調べるが、関わりすぎては行けない、突っ走ってはいけないと言われるが、ビルクートは労働者達の集会で、同士のビットリオが無実なのに捕まっていると必死の思いで発言する。しかし、社会主義とは恐ろしいもので、首尾よくマイクの電源は切られ、労働唱歌を歌うよう指示が出され、彼の声はかき消されてしまう。彼の誠実で勇気ある行いは、意味がなかったばかりか、英雄としての地位も貶めた。外に掲げられた彼の肖像画は、すぐに地面に下ろされ、足で踏みつけられた。

ビットリオ他政府を転覆させようという疑惑を持たれた容疑者の裁判が行われ、ビルクートは証人として裁判所へ赴いた。そこで、彼はビットリオの無実を訴える。ビットリオも自分は無実であることを言って、ビットリオは無事釈放された。

ビルクートは労働者達の間で再び英雄と称される。久しぶりに帰ってきた自宅には、家族はいなかった。ビルクートは妻を必死に探して、とうとうウェイトレスをやっている妻を見つける。しかし、妻はもう家族に戻る気はなかった。もともと結婚をしていなかった内縁の妻なので、どうとも言えない。

ビルクートはその後消えてしまう。1回だけ、みんなの前に出てきたことがあった。人民の自発 的意思によらず上から支配するスターリニズムという統制国家が崩れ去り、選挙権を 与えられた時、村民は不当な扱いを受けた彼のために投票を拒んだ。子供を抱えて 登場した彼は淡々と言う。

良いこともあったし、悪いこともあった。しかし、これは我々 の国だ

参政権があろうとなかろうと、自分の国に責任を持ち、正当であることを全うしたい、正義というものを主張したい。それが、彼の変わらない姿勢だった。

ラスト・シーンは強烈である。アグネシカが1950年代の状況を探ることで政府からにらまれることを忌避する上司は、ビクルート本人を見つけられなかったことを理由に撮影自体の中止を命じる。アグネシカは失望するも、父親の、カメラがなくても本人を見つけるべきだという言葉に打たれ、ビクルートの息子に会いにいく。息子(一人二役)は父親が死んだことを告げ、諦めるよう伝えるが、しぶとい性格のアグネシカは息子を説得し、息子とともにワルシャワの放送局に向かうのだった。歴史の闇に埋もれた主人公が息子の姿を借りて、光の中に再登場する瞬間であった。そこから、また困難は始まるらしい。
『鉄の男』が続編であるらしいので、そちらを今度見るつもりである





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