地下水道(1957)

火曜日1限のバイトが終わった後、法経図書館のAV(オーディオビデオ)コーナーで『地下水道』という映画を見た。ポーランドの傑作映画選のひとつとして置いてあり、簡単なストーリーを読んだところ、―ドイツとの抗戦で壊滅に追い込まれたポーランドの蜂起軍が、撤退して地下水道へ逃げ込むが、そこで悲惨なことが起こるというもので、少し興味が湧いたので観てみることにした。

内容は・・・かなり悲惨だった。
多分第二次世界大戦中だと思うのだが、ドイツのポーランド侵攻に対抗して立ち上がったポーランド蜂起軍が、ドイツの勢力(戦車など武力が明らかに違う)にかなわず、その地区のリーダーだった中尉が、撤退して地下水道を通って中央地区への移動を命令する。今まで一生懸命戦い多くの仲間を失ってきた兵士達は、最後まで戦い抜きたい、納得がいかないと失望しながらも、地下水道に逃げ込むが、そこでいろいろな試練、悲劇が待ち受けているのだった。

地下水道とは・・・下水道だ。下水道といえば、食べかすやウンチや小便といった人間の老廃物、排泄物などがどんどん流れてくる気持ちの悪いところだ。そこに浸かって目的地まで歩いていかないといけない・・・。あたりは霧が立ち込め、兵士は気分を悪くし倒れこみ、ドイツ兵が毒ガスを撒き散らしたのだという噂が飛び交うが(「ガス!!ガス!!(ギャス!!ギャス!!)」と叫ぶシーンが多い)、これは下水に捨てられ流れ込んだものが腐敗して有害なガスが出たためだと自称化学者の男が言っていた。多分そうだろうと私も思った。有害ガスはCl2やCを使った気体で大抵重いので、しゃがんでしまうとたくさんの毒ガスを吸ってしまう。これで倒れてしまう兵士も出た。

地上にいたときにピアノばっかり弾き、哲学ばっかり語っていた芸術家の男(蜂起軍と合流したみたいだけどひょろい)は、地下水道のあまりにも惨い状態(地上でドイツ兵に襲われたのか、上から下水に人がなだれ込んで来る・・・)を見て、発狂してしまう。彼は、ダンテの詩を語りながら、「ああ、この音がほんとの・・・」とか言いながら、笛を吹きながら地下水道をさまよう亡霊のようになってしまうのだ。

それから、戦地で中年兵士と恋に落ち「愛は死の恐怖さえやわらげる」とさえ言った女性が、地下水道の行き止まりで自殺をした。中年兵士は「俺はこんな所で死にたくない。妻も子供もいるんだ」と言った時、彼女は一切そのことを知らなかった。服のポケットにしまわれた妻子の写真と婚約指輪を見せられた時、彼女は死の恐怖よりも愛の絆よりも、凌駕した何かを心に決めてしまったのだろう。それはおそらく、短絡的に愛を信じすぎた結果の底知れない“絶望”であろう。彼女の死は、たとえ地下水道の袋小路でなくとも、訪れたかもしれない。しかし、自ら亡骸を下水に捨てるとはあまりにも哀れだ。

女を殺した(自殺させた)男は、地上に出ることが出来たが、運悪くそこにはドイツ兵達が待ち構えていた。そして蜂起軍と思われる人たちの死体の山が築かれていた。彼らも下水道から出てきたのだろうか、だとしたら待ち伏せされていて・・・つまりは罠だ・・・。地下水道で撤退することは、その出口を探され追いつめらることも逆に容易になる。男は、死体の山に近づき手を上げてしゃがみこんだ。―殺されるシーンがないだけに残虐だった。

23歳の若い青年ヤーツェク(たしか笑)は、プチ戦車(?)を解体しているときに銃弾にあたり右胸を負傷する大怪我を負ってしまい、地下水道撤退の時、本当に悲惨だった。彼は若く逞しい成年で、普段の状態なら絶対に上手く下水道を通過できたろうに、いつも下水道を通っているブロンドの女(案内人として抜群)について行ってもらっているのに、高熱を出してふらふらしている。無理もない、彼の胸は風穴が開いている。包帯で巻いているものの、下水の中に入れば、傷口にも汚い水が触れる。そして目的地の出口に向かう斜面を登ることが出来ないのだ。下水道を下れば、そのうち大きな川に出る。そこまで行きましょうと案内の女はヤーツェクを励ます。女は始めのシーンでヤーツェクに「いろんな男に媚を売っている」などと言われているが、本当はヤーツェク一筋の熱い生娘らしく、目的の下水の出口に「愛している ヤーツェク」と書いたのも彼女に違いない。しかし、ヤーツェクがその文字を読もうとした時に「電灯が勿体無いから消して!」と強く言う。「なんと書いてあるんだい、ヤー」と彼が言うと、「愛している ヤーネフよ」などと名前を変えてしまう…。その出口の斜面が登れない彼に、愛の言葉を告白してしまったら、彼が満足して死んでしまうような、そんな恐ろしさを女が感じているように思えた。
女はヤーツェクを励まして、ヤーツェクの肩を背負って、下流の川の方へ向かう。ヤーツェクは高熱にうなされながらも、彼女の現実的な考え方や強さに感心する。先に光が見えてきて、彼らは希望を抱く…。しかし、その光の先には・・・柵があり、河の外へ出ることは出来ない。ヤーツェクの体はもう限界なのに…。息絶えていく彼の目をつぶらせて、彼女は嘘をつく。「草原に出たわ。もうすぐ家に帰れるわ・・・」

中尉は先頭を切って下水道を歩いたが、バラバラにはぐれて3人しか残っていなかった。出口を見つけたとき、非情にもその出口には手榴弾が鉄条網に3つかかっていた。ドイツ兵の仕業だ。3人のうちの一人がゆっくりと手榴弾を外そうとする。けれども、その手榴弾の位置は身長から手を伸ばしても少し高い位置にあり、不安定な石に乗ってでないと届かない。彼は慎重に外していくが、最後の一発で石からずり落ち手榴弾に負荷をかけてしまう。スイッチを切ったわけではなかったみたいだが、いきなり爆発。即死。
こんなことなら、手榴弾を全部切って投げた方が助かるんじゃないか??
一人の犠牲を払って、後の二人は下水道より出ることができた。中尉は無我夢中でここまでやってきたが、あまりの必死さで、他の兵員の事を忘れていた。「もうすぐ来るんだろうな」ともう一人の部下に聞くと「えぇそのうち来ますとも」という。
「おい、すぐに来るんだろうな」「・・・わかりません」
「なんで言わなかったんだ」「助かりたかったからです、すみません、ごめんなさい」
「なんだと?部下達はどこに行ったんだ?見捨てたのか?」
こんな会話で、ズドーーーーン!!ズドーーーン!!ズドーーーン!!

中尉は激怒して、「この豚が」と言いながら、彼を撃ち殺してしまいました。うぉ!!ひど!!

そして、この中尉はなんと・・・今這い出てきたばかりのマンホールに降りていくのです。息絶えた仲間を探しに…。

内容を話すのに夢中で自分の意見とか混ぜる暇もなかったけれども、かなり印象的な映画でした(白黒ですが)。ポーランド圏の映画は初めてだったので、名前がよく覚えられませんでしたが、見ごたえのある素晴らしい映画でした。図書館にあるくらいなんで大変有名なんだと思います。見つけたら是非見てみてください…。





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